2024年、静岡県は荒茶生産量で初めて鹿児島県に首位を奪われました。「お茶と言えば静岡」というイメージが強い中、私たち県民にとってもショックな出来事でしたが、静岡茶ブランドを守るため、今、必要なことを取材しました。
茶畑で摘まれた生の茶葉を、蒸したり揉んだりして、乾燥させた製品になる前の一次加工したものを「荒茶」と呼びますが、静岡県は、この荒茶の生産量で、記録が残る1959年から65年間、日本一に輝き続けてきましたが…。2024年、年々、生産量が増えていた鹿児島県に首位の座を奪われてしまったのです。鹿児島にとっては長年の夢だったようで…。
(鹿児島県茶業会議所 光村 徹 専務理事)
「後発産地の鹿児島としては、本当に、悲願の荒茶生産量日本一。茶業関係者うれしく感じている」「知名度・ブランド力では遠く及ばないので」「農家の経営を安定させるには生産力を上げる必要がある」「今のお茶の相場で行くと、1番茶だけでは厳しいのが現実。ドリンク向けのお茶は作らざるを得ない。 そうなると低コスト大規模生産ができる鹿児島が有利に働いたのではないか」
山間地が多い静岡と違い、平坦な土地で大型機械を導入し、大規模栽培を進める鹿児島ですが、生産量1位となった要因はそれだけではないようです。農作物のマーケティングに詳しい専門家は…。
(東京農業大学 半杭 真一 教授)
「(抹茶の原料である)「碾茶」(てんちゃ)への対応が鹿児島が先行した。リーフ茶は下降トレンドであるため、トレンドをつかんでいるといえる」
実は、静岡は、急須などでいれることが多い一番茶では、2024年も首位でしたが、「抹茶」の原料である「てん茶」や「ペットボトル茶」の原料となる2番茶以降の生産量では、鹿児島が大きく伸ばしたため、総生産量で負けてしまったのです。これまで、「お茶と言えば静岡」といわれてきた県内の生産者は、どう見ているのでしょうか。牧之原で茶農家となって6年目となる原間さんは…。
(はらま製茶 原間 信太郎さん)
「こうなったかというのが最初の印象。悔しい気持ちもありますが、鹿児島の勢いを見ていると、『抜かれかねない』と思っていた。ついに来たという感じ」
近年、静岡茶を取り巻く環境は厳しく、特に生産者の減少は深刻で、耕作放棄地が増えています。
(はらま製茶 原間 信太郎さん)
「ここ数年の茶価の低迷もある。辞めてしまう人も多く」「一番茶の価格が下がってしまっている。いいものを作ろうという気概はあるが」「いい値段で買ってもらえるか 、消費量としても減っているので厳しいところ」
実際、一番茶の値段は、2000年にはキロ当たり3137円でしたが、2023年は1955円となっているのです。
(東京農業大学 半杭 真一 教授)
「価格は、需要と供給の問題。需要が上がればよい。どうすれば飲んでもらえるのか」「お茶全体が飲料の中でも価格が上げられていないのが問題。お客さんが何を求めているのか考えないといけない」「急須で入れる時代ではなくなってきている」
ライフスタイルの変化で手軽な飲み方が求められる中、そうした需要へ、いかに訴求できるかが重要だというのです。手軽な飲み方でも、おいしさを求める人たちはしっかりとお金を出してくれる可能性があるのです。
(東京農業大学 半杭 真一 教授)
「静岡のお茶はブランド力が高いので、うまく使い、自分たちの良さを、もう一度見出す必要がある。他の農作物でもよくあることだが、生産者や生産者団体は静岡茶の良さが見えていないと思う」
これまで「お茶と言えば静岡」「お茶王国・静岡」など静岡茶ブランドの圧倒的な地位を築いてきましたが、それは、生産量だけでなく、品質の高さが評価されてきたからなのです。こうした味や品質に対する努力を、どうアピールして活かしていくかが、今後の大きなカギとなるのです。しかし、静岡茶も、ただ手をこまねいていたわけではありません。県は、これまで様々なブランドで展開していた静岡産のお茶を、静岡茶として世界に一体となりPRする統一ブランドを作り販路を広げていこうと、若手茶業者を中心としたプロジェクトを進めているのです。
先週、1年目の成果をまとめる会議が開かれました。そこで発表されたのは…。
(参加者の唱和)
「『正真正銘』を茶都から世界へ。さあ、共に」
まずは、消費者ではなく生産者に向けて、品質の高さこそが静岡茶であり「正真正銘」のお茶であることを胸に、生産にあたってほしいとコンセプトが示されました。これを軸に、県は、今後、静岡茶のロゴマーク作りや更なる販路開拓を進めるといいます。
(県・お茶振興課 佐田 康稔 課長)
「順位については一喜一憂することなく、本物、正真正銘、本物を作っていく。静岡茶の魅力を世界に発信していきたい」「世界でお茶が人気になっているが、その状況が生産者に伝わっていない気がする」「情報発信しながら魅力を伝え、世界の人が何を求めているか生産現場に伝える橋渡しをしていきたい」
世界でのお茶人気に、静岡茶がどう乗っかっていくか。生産者がどんどん減る中で、これまで築いてきた「静岡茶」ブランドを守るためにも、待ったなしの取り組みが求められます。
2025.03.24