浜松市で親族3人を殺害した罪に問われた男に対し、地裁浜松支部は懲役30年の判決を言い渡しました。被告が「別人格の犯行」と主張した異例の裁判。争点の責任能力について裁判所の判断は?
15日、午後1時半から開かれた注目の裁判。祖父母と兄を殺害した罪に問われたのは元警察官の男です。「別人格の犯行」だったと無罪を主張する男に責任能力を問えるのかが最大の争点となりました。
殺人罪で起訴された元警察官で25歳の被告の男。2022年、浜松市中央区の自宅で祖父と祖母、兄の頭をハンマーや金づちで殴って殺害した罪に問われていました。15日間に及んだ法廷での審理。長髪で細身の男は、淡々とした口調で無罪を主張してきました。
(被告の男の主張)
「僕は人を殺した自覚もないし記憶もありません」
小中学校の頃、家族から性的暴行を含む虐待を受けた影響で、解離性同一症を発症したという被告の男。事件については「ボウイという別人格の犯行だった」と主張しました。
(被告の男の主張)
「ボウイという別人格と話をするようになった。ボウイから『家族は悪魔だ。俺が痛みを教えてやる』と言われ続けた」
精神鑑定をした2人の医師の見解も割れました。2回目の鑑定をした東京科学大学の岡田幸之医師は、検察側の証人として出廷し、「虚偽や誇張が含まれている可能性があり、被告本人の思考で犯行に及んだ」と指摘。これに対し1回目の鑑定をした浜松医科大学の和久田智靖医師は、弁護側の証人として出廷し、「ボウイの犯行を制御することは不可能だった」と説明しました。
「被告の責任能力」について、元東京地検特捜部副部長の若狭勝弁護士は…。
(若狭 勝 弁護士)
「真っ向から対立しているんですよね。だから、どちらの専門家の見解をとるか、採用するかによって判決もかなり大きく違う」「障害があるがために引き起こした、直結したといえるかどうかが最大のポイントだと思いますが、かなり専門的な話なので、裁判員は相当悩むと思います」
検察側は、2024年12月の論告で、たとえ「ボウイ」の状態であったとしても、計画性の高い犯行に及んでいて違法性は判断できる状態であり、「責任能力はあった」として無期懲役を求刑。「責任能力はなかった」とする弁護側は無罪を主張していました。
裁判所の判断が注目された15日の判決公判。地裁浜松支部の来司直美裁判長は、「被告が犯人であり、解離性同一症の影響で行動制御能力が低下していたものの著しいものではなく、完全責任能力があった」と指摘。犯人である理由として、「直接証拠がないものの、血が付いたハンマーを台所のシンクで洗ったり、血が付いた服を洗濯しようとしていたほか、3人への殺意があり、犯人であることは間違いない」などとして、被告の男に対し懲役30年の判決を言い渡しました。
(スタジオ解説)
(伊藤 薫平 キャスター)
今回の栽培では被告の「責任能力」が最大の争点となりました。双方の主張を整理します。
検察側は「責任能力はあった」と主張しました。その理由として凶器のハンマーを準備し準備するなど計画性が高く、血の付いた服を洗濯するなど状況に応じて臨機応変に立ち回った」違法性は判断できる状態だったと指摘しました。これに対し「責任能力はなかった」と主張する弁護側は、「残忍な犯行に及んだ姿は普段の被告の姿とかけ離れている。ボウイという別人格による犯行を制御できなかった」と反論していました。
この「責任能力」を巡り、地裁浜松支部は完全責任能力はあるという判断をしました。裁判所は、別人格・ボウイの状態で犯行を行ったが、行動を制御する能力は著しく低下した状態ではなかった。被告には怒りの感情があり、一個人として殺害する動機があった。その動機について、裁判所は、「被告が幼少期のころから被害者から虐待を受けていて強い恨みからの犯行」、そして被害者を呼び出して、準備していたハンマーや金づちなどを使い殺害したことなどからも、強い殺意があったと認定し、懲役30年の判決を言い渡しました。
2025.01.15