みなさん、アピアランスケアという言葉を知っていますか?がん治療による脱毛など外見の変化に対するストレスのケアを行うことで“医療用ウィッグ”もそのひとつです。
抗がん剤治療により髪の毛が抜けてしまうことで、通常の生活が出来なくなる人は多く、人と会いたくなくなった人や、仕事や学校を辞めたり休んだりする人が4割を超えるという現実があります。そんな、がん患者を助けたいと、ある活動をする中学生が静岡市にいます。
(取材ディレクター)
「こんにちは」
(石川 陽絆[はるき]さん・中2)
「こんにちは」
石川 陽絆[はるき]さん、14歳の中学2年生です。実は、3年間、髪を伸ばし続けていて、その長さは60センチ以上。しかし、なぜ、中学生の男の子がこんなにも髪を伸ばしているのでしょうか。
(石川 陽絆[はるき]さん・中2)
「母が乳がんになってしまって、そこから一時的に髪の毛が無くなってしまったんですけど、お母さんと同じ境遇の人を助けたい」
実は、陽絆さんの母・明代さんは、4年前に乳がんを患いました。
(母・明代さん・46歳)
「週3くらいで病院に行っていたので、仕事は辞めて、闘病生活という感じでした」
入院はせず、通院しながら治療を行いましたが、抗がん剤の影響で、髪の毛は、ほぼ抜けてしまったといいます。そんな明代さんを救ったのが、医療用ウィッグでした。
(母・明代さん・46歳)
「あれ(医療用ウィッグ)が無いと、外には出られませんね。くせ毛なのでショートカットにしたことが無かったんですが、どうせならショートにしようと思って、ショートのウィッグとロングのウィッグと日替わりで気分に合わせて楽しんで、ウィッグのおかげでそんな生活ができました」
そんな母の姿を見て、がん治療で苦しむ人の力になりたいと、無償で医療用ウィッグを提供する活動「ヘアドネーション」に協力したいと考え、自分の髪の毛を寄付するために小学6年生のときから髪を伸ばし続けているのです。
陽絆さんが通う中学では、本来、男子生徒は襟より長い髪型が禁止されていますが、入学前に事情を説明し、特別に髪の毛を伸ばすことが許可されています。しかし、年頃の同級生に囲まれ、最初は苦労もあったといいます。
(同級生)
「最初はびっくりしました。受験の教室が同じで、(女の子に見えるのに)ズボンはいている。僕は髪の毛が短いので尊敬します」
今では、学校でも、陽絆さんのヘアドネーションの活動が認知され、からかわれることも無くなったといいますが、街を歩けば女の子に間違えられてしまうこともあるといいます。
(石川 陽絆[はるき]さん・中2)
「たまに嫌になる時はあったんですけど、そんなことで辞めたくないなと思って、それよりも助けになりたいっていう気持ちが大きかったと思います」
年頃の中学生ならではの苦労もありながら、2月には、約3年をかけ、スーパーロングのウィッグが作れるほどの60センチを伸ばしきりました。そんな息子の姿を見て、母の明代さんは…。
(母・明代さん・46歳)
「病気の治療のために、髪の毛がなくなってしまう人のためを思ってくれてありがとうと、こんな風に育ってくれてうれしいなという気持ちです」
そして、伸ばし続けた髪の毛をカットする日がきました。
(石川 陽絆[はるき]さん・中2)
Q.実感はわいてきた?ちょっとだけ切るんだなあって?
「はい」
3年間伸ばした髪の毛も、切る時はチョキンと、あっという間です。切られた自分の髪の毛を見て少し驚いた様子。短くなった髪をきれいに整えてもらいますが…まだ少し違和感があるようです。
(石川 陽絆[はるき]さん・中2)
「自分じゃないみたい。これがカツラになると思うとすごい。やはり、病気で困っている人の助けになってほしい、喜んでくれるといいね」
カットされた、陽絆さんの髪の毛は、医療用ウィッグに生まれ変わり、抗がん剤治療を行うがん患者らに提供されます。長かった髪を切って1か月。短い髪での生活にも慣れてきたそうです。
脱毛で苦しむがん患者に寄り添う活動は静岡市内のこの美容室でも。
脱毛した際に使うウィッグは髪型や色など、様々な種類があるものの、既製品をそのまま使うと、脱毛する前と同じ見た目というわけにはいきません。それがストレスに感じる人もいるため、この美容室では、脱毛する前の髪型を再現したウィッグ作りを行っています。美容師の宮崎さんは、がんなどについて学び、患者さんに寄り添った施術が行える“再現美容師”という資格を持っています。
(再現美容師 宮崎 文子さん・56歳)
「産毛を作ったり、おくれ毛を作ったり、工夫しながら作っていく。いかに自然に見えるかです」
全国に33人しかいない再現美容師ですが、宮崎さんが目指すきっかけとなったのは、常連さんが乳がんとなり「髪の毛が抜ける前に丸刈りにしてほしい」と依頼されたことでした。
(再現美容師 宮崎 文子さん・56歳)
「抗がん剤に対する脱毛についてや、患者さんの気持ちとか、縁がなく、その子にかけるアドバイスが全くなくて、なんなんだ私って感じ」
そして、2013年に再現美容師として活動を始めましたが、その3年後、まさかの宣告をされます。それは…乳がんでした。
(再現美容師 宮崎 文子さん・56歳)
「まじか、って感じでした。こればかっかりは、何か悪いことをしたわけではないので、私にきたかと思いました」
自分自身もがん患者となり、現在も抗がん剤治療を行っているため、それまでの自分の髪型を再現したウィッグを自ら作り、生活をしています。思いがけず、がん患者の気持ちを実体験で知ることになり、がん患者のお客さんへ親身に寄り添うことができているそうです。
(再現美容師 宮崎 文子さん・56歳)
「不安そうな顔の人が、帰りはちょっと笑顔になって、『頑張る』言って帰っていく姿を見て、再現美容師になってよかったと思います」
がんは国民病ともいわれ、誰もがなる可能性があります。その時に、生活の質を少しでも維持できるように、このような活動をあることを知っておくことが、いざという時の助けになるかもしれません。
2025.03.26